恐子さんの言いがかり
ランチ会をきっかけに、私は完全に恐子さんが苦手になってしまいました。
恐子さんが近くにいると、胸がざわざわします。
理由のわからない悪意をビンビン感じてしまいます。
かといって、恐子さんに理由を問いただす勇気は私にはありませんでした。
ある週末、わんこが「ママ、暑いから髪切りたい!」と言いました。
わんこは髪の毛は背中まであり、量も多く、ドライヤーで乾かす時にとても時間がかかります。
夏に向けて短くするのもいいね、と思い美容院に連れて行きました。
美容師さんにお任せすると、長かった髪を顎くらいまでバッサリ切り、子供らしいボブに仕上がりました。
前髪も眉毛よりずいぶん短くなり、わんこは「わぁい!ちびまる子ちゃんだ〜!!」と大喜びだったので、私も嬉しくなりました。
「幼稚園の先生、かわいいっていってくれるかな?」
わんこは幼稚園で短くなった髪の毛を、みんなに見せるのをとても楽しみにしていました。
月曜日、寝癖を直して張り切って幼稚園に向かいました。
わんこの髪型は好評で、先生もお友達も褒めてくれ朝から上機嫌です。
その光景を微笑ましく見ていると、少し遅れて恐子さんがAちゃんの手を引いてやってきました。
「おはようございます。」と恐子さんの隣のAちゃんに目を向けると・・・。
なんとAちゃんがわんこと同じ髪型になっていました。
「あら!Aちゃんも髪を切ったの?わんこちゃんも髪を切ってAちゃんと同じ髪型になってるよ!双子みたいでかわいいね!」
先生がそう言うや否や、わんこが駆けて来て、
「わあ!Aちゃんもわんこと同じ髪型になってる!やったー!!お揃いだね!」
Aちゃんも、
「わー!やったー!」
2人で手を繋いで仲良く教室に入っていきました。
「見て見て〜!」
2人の嬉しそうな声が遠くで聞こえてきます。
が・・・
隣の恐子さんに目をやると、ものすごい形相で私を睨んでいました。
「・・・おはようございます。」
恐怖を押し殺し、2度目の挨拶をしました。
恐子さんからの挨拶はありません。
またあの蛇のような目で、上へ下へとジロジロ睨んでいます。
そして、ハキ子さんを見つけると、
「ちょっと聞いてー!!」
と大きな声を出して去っていきました。
私は胸がドキドキざわざわしました。
ハキ子さんに必死で何かを訴えている恐子さんの背中が視界に入りました。
背中からでも相当怒っているのが伝わります。
わんこがAちゃんと同じ髪型にしたことを怒っているのが容易に想像できました。
「あり得ない!」
「マジムカつく!」
「最悪!」
時々聞こえてくる恐子さんの声が胸に刺さりました。
急いで車に乗って、家に帰りました。
私が何をしたと言うのだろう。
Aちゃんが元々あの髪型にしていて、わんこが後から真似をしたのなら気持ちはわかります。
でもね?
お互い週末に切って、今日偶然にも同じ髪型だとわかったんだよ?
恐子さんが本当に私の想像通りのことで怒っているのなら、あまりにも理不尽すぎやしませんかー??
悶々としているうちに迎えの時間が来てしまいました。
憂鬱な気持ちを押し殺し、足取り重く幼稚園の玄関に向かうと、ハキ子さんが話しかけて来ました。
「Aちゃんが熱が出て早退したんだって。
今朝恐子さんが、わんこちゃんがAちゃんの髪型を真似したってすごく怒ってた。
お互い週末に切ったんだから真似したわけじゃないでしょって恐子さんに言ったんだけど、全然聞く耳持たないんだよね。
気にしない方がいいよ。」
私の想像通りでした。
恐子さんの言い分としては、
髪の長い子が多いから、Aちゃんの髪型をボブにしたいと日頃から言っていた。
それを聞いた私が真似をして同じ美容室に行った。
わんこはAちゃんが好きだから、絶対真似をしたんだ!
ということらしい・・・。
「日頃から言っていた」と言うけど、私は恐子さんと全然仲良くないし基本喋らない(喋ってもらえない)、恐子さんがいるグループにだって近づけないのにどうやってそんな情報入手するんだよっ!
「同じ美容室」とか私はストーカーか!
ってか、全然憧れてませんけどっ!
恐子さんの言っていることは完全に言いがかりだけど、彼女は自分が思ったことは全て正しいと思い込んでしまう人間なんだと思う。
あぁ、また明日から更に憂鬱だ・・・。
旦那に相談しても、「そんな奴ほっとけ!」
まぁ、正論なんだけどさ。
予期せぬ恐子さんの攻撃で、心がずっしり重い1日でした。