恐子さんの豹変
家族参観日以降、恐子さんの態度が豹変しました。
翌日から目を見てちゃんと挨拶はするわ、馴れ馴れしく話しかけてくるわ、あろうことかボディタッチまでしてくるようになりました。
電話番号まで交換する羽目になり、裏にどんな意図があるのか怖くて仕方ありませんでした。
ハキ子さんはじめ、他のママさん達も首を傾げていました。
ある日、恐子さんが、
「うちの家柵がまだ無いから、柵をしようと思うんだ。まうみちゃさんのご主人ってエクステリア関係のお仕事だよね?お願いしようと思うから名刺をくれない?」
と言ってきました。
何か面倒なことにならなければいいけど・・・と思いながら、家に帰って旦那に話すと、仕事をくれるのならありがたいと言っていたので、名刺を預かって翌日恐子さんに渡しました。
それからも恐子さんは機嫌良く、ある日ランチに誘ってきました。
恐子さん、ハキ子さん、ギャル子さん、私の4人で行くことになりました。
席に座るやいなや、恐子さんは同じクラスのママさんの悪口を言いはじめました。
ターゲットは家族参観日の前日に恐子さんが食らいついていた、ご主人が大手企業に勤めているママさんでした。
セレブ風でセンスのいいママさんで、PTAの役員をやってくれている人です。
控え目で責任感があって、役員の仕事もそつなくされていて、一目置かれるような存在のママです。
ここではセレブさん、とします。
恐子さんの言い分はこうでした。
・セレブさんはご主人の仕事を鼻にかけている。
・セレブさんは行事の時に毎回しきるから出たがりだ。
・セレブさんは赤ちゃんにラルフローレンを着せているから金持ちアピールだ。
・セレブさんのご主人は愛想が悪い。恐子さんの家族を生活水準が低いと思って馬鹿にしている。
・セレブさんはアウディに乗っているが、あれはグレードが低いやつだから見栄っ張りだ。
かいつまんで言うとこのような内容でした。
セレブさんは確かにお金持ちで、身なりもきちんとしていて高そうな服を着ていますが、とても気さくな人で全くそれを鼻にかけていません。
行事の時にまとめ役になるのは役員さんだからです。
普通は上の年長さんの役員ママがしきるみたいなのですが、そういうのが苦手そうな若いママさんなのでセレブさんがまとめ役になっている状態です。
現に、テキパキまとめてくれてみんな助かっています。
セレブさんのご主人は寡黙な人ですが、きちんと挨拶などはしていました。男性ですし、初対面の人にベラベラ話す人の方が少ないでしょう。
セレブさんは人当たりが良くて気取っていないので、悪い印象を持っている人はほとんどいないと思います。
恐子さんが言っていることは、ただの僻みと思い込みとしか思えません。
ハキ子さんもギャル子さんも私もそれに関しては誰も同調しませんでした。
かと言って強く否定するわけにもいかないので、
「そんなことないと思うけど。」
「私は嫌いじゃないなあ。」
という感じで話は聞くが、一緒になって悪口を言うことはありませんでした。
それに対して恐子さんは、
「みんな呑気すぎない?ちゃんと人のこと見ないと!」
とこちらの見る目が無いような言い方をしていました。
そんな感じのランチでしたが、こちらに飛び火するようなことはなく無事に終わりました。
この日のランチの会話から、恐子さんは思い込みがとても激しい一面があるとわかりました。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという感じで、1つ気に入らないところがあると全てが嫌いになってしまうようです。
そして、かなりのマイナス思考だということ。
一緒にいて元気が吸い取られる感じで、ランチが終わる頃にはどっと疲れたしまいました。
思えば初対面のあの日、挨拶してもらえなかったこの前まで、私の些細な行動を今日のように被害妄想的に捉えていたのではないでしょうか。
例えば私の服装や話し方が、恐子さんにとっては気に入らないものであった為に、私という人間が一瞬にして最低人間になったのだろうと思います。
機嫌が良くなったのはやはり旦那の愛想が良かったから、妻の私もイコールで結ばれたのかな?
その辺が謎です。恐子さんのツボがイマイチ理解できません。
ご主人が大手の会社員だと知って仲良くなろうと思っていたのに、自分の思っていたような人ではなかったのでセレブさんがターゲットになってしまったのでしょう。
その日から恐子さんはセレブさんに挨拶をしなくなりました。
代わりにハキ子さんとギャル子さんと私にベッタリになり、再び不穏な空気が流れ始めたのです。